宇宙人との暮らし方。
夫は4度戻ってきた。
朝、「行ってきます」と玄関のドアを開けて、4度。
1度目、玄関のドアが開かれた時、「またかしら」程度の気持ちで私はマスカラを塗る手を止めなかった。
すぐに夫は「行ってきます」と言って出て行った。
二度目。
玄関のドアが開かれたのと同時に「え〜っと・・・」と呟く夫の声が聞こえた。
私はまだマスカラを塗っていた。さっきと同じように私は手を止めなかった。
数秒後、夫は再び「行ってきます」と言った。
3分ほどして。
また玄関のドアが開いた。さすがに私は訪問者があったと思った。夫以外の。
でも夫だった。
どうしたの、と一応聞いた。
大丈夫、大丈夫、みたいなことをぶつぶつ言いながら夫は玄関と書斎を2度ほど往復して、4回目の行ってきます、を言って出て行った。
そして3分後。
「ごめん!ベッドの上のairpods取って!」
ドアが開くともう夫は靴を脱いで玄関を上がることなく、洗面所にいた私に声をかけた。
私がそれを渡すと「ありがとう、行ってきます」と言ってまたまたまたまた出て行った。
次に戻ってきたのは8時間後だから、無事に夫は仕事を済ませて来たと思う。
ところで、
なぜ、4回も戻ることになるのか。
なぜ、3回目でairpodsの忘れ物に気づかなった?
毎回几帳面に「行ってきます」を忘れずに言えるのに?
さすがに4回戻ってくるのは珍しいけれど、夫は一度の「行ってきます」で本当に出かけるのは稀である。
だいたい1度は戻ってくる。
こんなことは日常の、夫との生活の中のほんのほんの、ほんの微かな塵みたいな一部であって、
私の夫は少し風変わりで奇妙なところがある。そして面白い。
funnyじゃなくてinterestingの方。
夫はいわゆる日本の最高学府、某T大卒のとても頭の良い人間である。
彼に任せておけば日々の難しい出来事、仕事、人生の山や谷まで、
まるでただ穏やかな波に乗っているような気持ちでふわりふわりと乗り越えて行ける。
ただ、絶望的に期待してはいけない部分も持っている。
よく、頭のいい人は人格が破綻しているとか、感情が欠落しているとか言われるけど、
それは別に頭が良くない人でもそういう人はいるし、まぁそういうこと。
ただ、殊更頭のいい人がそれらを指摘されやすいのは、ただひたすらに彼らが合理的な人間だから、かもしれないと思う。
そんな頭が良くて合理的、なのに絶望的にダメな部分もある、
愛すべき奇人、宇宙人な夫との日々の暮らしをこれから少しずつ書き綴って行こうかと。
ひとつ、予め言っておくと、
T大卒はこうだ!っていう分析ブログではないし、
T大万歳!でもT大ありえない!でもなく、どちらの立場を取っているわけではありません。
ただ、T大卒というひとつのアイデンティティを持つ夫との日々のはなし。